はじめに結論から言いますが、156TS右ハンドル車の場合バッテリー移設は全くやる価値がありません。いやむしろ、やってはいけません、と言った方がいいかもしれません。実際に私が移設して300キロ程度、街中〜高速〜峠と走ってみて出した結論です。少し長くなりますが、関心と時間のある方、走りにこだわる方はぜひ読んで、考えてみてください。
※移設方法のDIYについては、アップする予定はありません。ただし、後述しますが、左ハンドル車であれば、効果があるかもしれません。どーして知りたいという方は、車種を記載してメールをください。
以前からバッテリーをオデッセイ等、軽量バッテリーに交換したいと思ってました。でも3万円近い出費は私の小遣いでは無理。そこで移設を思い付きました。クルマ全体としては軽量化にはなりませんが、わずかな予算で前軸重量は大幅に軽量化できることになります。FFセダンとしては極めて回頭性のいいハンドリングの156が、よりクイックに曲がることを期待してのことです。
詳細は省きますが、上の画像が試作1号の移設後のものです。バッテリーはフロントのオーバーハング位置から、リアオーバーハング位置に移設されています。縦置きにしたのはフェラーリをイメージしたから、ではなくて、この方がステーで固定しやすかったからです。バッテリーは純正のものではありませんが、これは納車後約4か月で突然死したため、ディーラーが無償交換してくれた純正相当対策品です。形状、重さ(15,5kg)とも純正とほとんど変わりないものです。さて、移設による前軸と後軸の重量変化は下の画像のようになったと思われます。
 
エンジンルーム内にあったときのバッテリーは、前軸のやや前方にありましたから、フロントタイヤに荷重をかけるとともに、前軸を軸として後輪を持ち上げる(グラム単位のわずかな値でしょうが)作用を果たしていました。移設後はこれとは全て逆になり、バッテリーは後輪を押し下げ、前輪を持ち上げる方向に作用することになります。数値で表しますと、ノーマル状態での前後重量比が65:35であるところ、移設後は63:37になったことになります。(車検証の前後軸重量を基に計算)
読者の方の中には、「たかが16kgくらいのものを移動したってどうってことないだろう」と思われる方が少なくないと思います。ところがどっこい、移設の効果は想像以上のものでした。
まず、運転席に座った瞬間にわかりました。明らかにクルマの左前が浮いています。ちょうど右後輪がパンクしたような状態です。この時点で何となくイヤな予感がし始めました。で、走り始めますと、ハンドルが軽い軽い! 弱いといわれるパワステポンプにとっては好作用です。交差点をちょっとスピード上げ気味に曲がってみても、確かにフロントが軽くなったのがわかります。ハンドルを「クッ」と切ると、フロントが「ヒョイッ」と軽く動きます。
でもちっとも楽しくありません。
156はいかにも欧州車らしく、しっかりとグリップ状態をステアリングを通じてドライバーに伝えるクルマです。ところが、移設後のハンドリングは、フラフラと頼りなく、特に中立付近では軽自動車のようにステアリングフィールがあいまいになりました。クルマで外回りの仕事をしたことのある方はわかると思いますが、商用バンやワゴンの荷室に数百キロの商品や販促資材を載せて思いっきりリアが沈み込んだ状態にそっくりです。しかも、交差点左折からの2速全開であっけなく左前輪が空転します。アクセルをいくらか戻しても容易に収まらないレベルです。
←ボディアース
上の画像は、試作1号を反省して新たに設置場所を左前方寄りに移した、試作2号の状況です。少しでも左前輪に荷重をかけるため、トランク内の目一杯左前方にバッテリーを設置し直しました。その結果は…、
市街地を走った感じでは、いくらか試作1号よりましになったかな程度で、依然としてステアリングインフォメーションは希薄であり、不快なハンドリングです。そこで、少しでもフロントタイヤに荷重をかけるため、前輪の空気圧を0,3くらい低めにし、いつもモディファイの度に訪れるガマの油の産地(筑波山)に行き、コーナーを攻めてみました。左の低速コーナーでは、登り下り問わず左前輪空転嵐。右ヘアピンでは大舵角でいきなりの前輪トラクション抜け&制御不能(←やった! と思いました。13年ぶり…)。左右コーナリングでのフィールの相違。ブレーキング時の不安定感等々…。前回走ったときに比べて、一つもいいことはありませんでした。逆に危険度は大幅に増したといえます。
こんなモディファイ、とても人に勧められません。
というわけで、本日バッテリーを元の位置に戻しました。パワーケーブルやら何やらで結構な出費になりましたが、クルマの重量配分を考える意味でとてもいい勉強になりました。まず、FFにとって前輪荷重は絶対必要条件だということです。前輪が駆動輪と操舵輪を兼ねるFF車の前輪にトラクションがかからなければ、単に曲がらない加速しないクルマになってしまうだけ話です。
さらに今回知りたくないことを知ってしまいました。どれだけ前輪左右で荷重が違うかと、左右タイヤとフェンダーの間隔を測ってみたところ、左約6,5cm、右約5,4cmと右の方が1cmほど低いことがわかりました。誤差にしては大きすぎます。
クルマって運転席に人が座ってはじめて動くものですから、メーカーでは運転席に大人1人が座ったものとして左右の重量配分を考えます。156は基本が左ハンドルであり、左側運転席に大人が座ったときに、左右バランスがとれるように設計されているわけです。つまり156って左右バランスの点で右ハンドルのことを考慮してないと思料されます。
エンジンルームを眺めればわかるとおり、エンジンは全体的に右側にオフセットされており、そのバランスをとるように左側にバッテリーが置かれています。 運転者の体重を考え、ただでさえ右側にバランスをとったクルマから左側の負荷を除けば、バランスが極端に悪化するのは必然です。
ただし、左ハンドル、特にノーズが重いV6の場合は、移設によるアドバンテージがあるかもしれません。これらのオーナーの方であれば、一考の余地があることは否定しません。
画像は試作段階のものです、もし移設される方は、プラス側の電極を絶縁体でカバーすることを絶対に忘れないでください。