モデルチェンジ直後の購入はダメ! な理由

 

 研修中に自動車工場で働き、出向先ではクルマを売った経験から言わせていただきますと、モデルチェンジ直後の購入は絶対に避けるべきだと思います。その理由は大きく分けて二つありますので、それぞれについて説明してみます。なお、それらのリスクを覚悟の上で購入されるなら、もちろん、何も言うことはありません。

 

理由その1 〜モデルチェンジは日々行われている!

 販社に出向中、納車前の新車を掃除していたときのことでした。ドアの室内側オープナーハンドルの内側に、小さなゴムのストッパーが付いているのに気が付いたのです。直径2ミリくらいのとても小さなゴムですが、それまで納車したクルマには無かったはずのものです。そこで先に工場から来た同型車を見てみると、やはり古い方にはこのゴムがありません。試しにこのハンドルを勢いよく戻してみると、ゴムなしの古いクルマでは、「バコン!」と大きく安っぽい音がするのに対し、ゴムが付いた新車では、「トン」と軽い音になっていました。当時このクルマは、フルモデルチェンジして半年ほど経ったばかりの新型車で、もちろんマイナーチェンジなどまだまだ先の話でした。

 このストッパーの件はとても小さな例ですが、メーカーでは、販社やユーザーからの情報や要望を元に、モデルチェンジによらずとも、日々常にこうした改善を図っているのです。エアコンの例を挙げてみますと、競争とつき合い、それに何より安定供給の点から、メーカーは複数の電装部品メーカーからエアコン部品の供給を受けていることがほとんどです。つまり同じ車種の同じグレードであっても、取り付けられているエアコンのメーカーが違う場合があります。メーカーからの指定仕様に基づいて設計、製造しているわけですから、性能的に大きく異なることは今時ほとんどありませんが、厳しいコスト管理が災いして、信頼性と耐久性の面で差が付くことがあります。仮にA社とB社のエアコンがあり、B社のエアコンのみ故障で相次いでクレームが生じたとなれば、メーカーはB社のエアコンが改善されるまで、新車に取り付けるエアコンをA社のみにしてしまうでしょう。或いは信頼を無くしたB社を捨て、新たにC社と契約を結ぶかもしれません。

 このような社内と社外の改善が日々行われているわけですが、当然のことに、不具合が集中するのはモデルチェンジの直後です。特にエンジンが新しい型式になったり、新機軸が導入された場合は危険度Aです。(比較的最近の例では、三菱ギャランのGDIエンジンが相次いでリコール出ていたはずです。)

 

理由その2 〜人間にも機械にも慣らしは必要

 自動車メーカーの工場は、それこそ日々自動化が進み、「えっ、こんなことまで!」というほどに機械化が進行しています。とはいえ、やはり人間様の手によらなければどうしてもできない行程がまだまだあり、今日も早朝から深夜まで、多くの工員さんたちが汗を流していることでしょう。

まず人間様の話からです。

工員さんたちは、毎日ほぼ同じ作業を繰り返し、日々熟練の度合いを増していきます。大工さん等の職人さんと同じです。その結果、徐々にラインの速度は増し、完成したクルマの出来は向上するとともに安定もします。

 フルモデルチェンジする場合、工場は1週間程度閉鎖され、大がかりな設備変更の工事が行われます。この工事が終わると、工員さんたちは、ベルトの上を流れて来る新型車に慣れるまで、大いに苦労します。サラリーマンで言えば未知の土地へ転勤したようなもので、それまで数年間慣れ親しんできた車体の形状が、ガラッと変わるわけですから、無理もありません。しかも、車種によっては、輸出先やグレードが増え、取付ける部品の種類や方法が増えることもあります。当然、慣れないうちは、取付の部品や方法を間違えることがザラです。

新型がラインを流れ出した後の半月くらいは、工場のあちこちでトラブルが発生し、ラインは止まっている時間の方が長いほど。ブースごとに完成検査の部署があるとはいえ、彼らも新型導入直後は慣れていませんし、販社からはどんどん作って送れとの要請が来ていますから、つい不完全な製品を市場に流してしまいます。

 次に機械の話です。

 今時ロボット無しに機械メーカーの工場は成り立ちません。とはいえ、そのロボットたちのハードやソフトを作るのは人間です。新型車を作るとなると、ハード、ソフトとも大きな調整や変更が必要になります。例えば、車体の塗装に関してはそのほとんどをロボットアームが行っていますが、その動きは芸術的なほど繊細で職人的です。故にその調整は大変な苦労を必要とするものです。

クルマの塗料は有機溶剤を含む危険物です。私の研修中にも、この塗装ロボットの1台が、何かの拍子に火炎放射戦闘マシーンに進化してしまったことがありました。このときは工場内大騒ぎとなり、1〜2時間ラインが止まったと思います。(一般工員は大喜び)

 人間が精進するように、ロボットたちも毎日調整や変更を受けて熟練していきます。結果として、塗装なら美しさが上がり、スポット溶接なら精度が上がって強度が増すことになるのです。

 

 お分かりいただけましたでしょうか。フルモデルチェンジ後であれば、最低半年は経過してから購入された方がいいと思います。また逆に考えますと、フルチェン直前の現行車は、最高の習熟度の工員さんとロボットによって作られたわけで、信頼性と完成度の高さの点では最も優れたものになっているはずです。マイナーチェンジの場合は、それほど神経質になる必要は無いかもしれませんが、エンジンが変わるほど大規模なものなら、しばらく待った方がいいでしょう。

 また、リコールにまで至らない程度の不具合に対し、メーカーから対策部品がディーラーに配布されている場合が多々あります。こうした対策部品は、車検や定期点検等で入庫したクルマに対して、無償で(往々にしてユーザーには内証で)交換されることがしばしばあります。(事例 私のいたメーカーでは、世界で初めて電動パワステを市販車に採用したのですが、初期ロットのものの大半に動作不良〔なんと、停車中勝手に動く〕が発生し、本来ならリコール処理すべきところ、入庫したクルマについて電動モーターの品番を調べ、該当するものは全て対策品に交換していました。ユーザーには必ずしも説明していませんでした。)もちろんやってもらった方がいいことですから、普段知り合いの工場ばかりに整備を任せている人も、たまには正規ディーラーに出すといいでしょう。