使用工具 7ミリヘックスレンチ(L字でなく、写真のラチェットを使った方が良いです。ただし日本の規格品は、6ミリの次が8ミリで、7ミリはよほど大きなホームセンターか、工具専門店にしかないでしょう。がんばって探してください。)、鳴き止めグリス(専用品を使用してください。一般用グリスですと、シリンダーブーツ等のゴムに悪影響を与えるおそれがあります。また熱で気化、硬化するかもしれません。)、ブレーキ洗浄剤(クレ ブレークリン等)
いじくり時間 90分
いじくり費用 1,500円(鳴き止めグリス、洗浄剤)
難易度 A

お願い
 フロントのブレーキパッド交換は、技術的には決して難しい作業ではありませんが、場所が場所だけに、万が一ボルトの締め忘れや取付不良等があった場合には、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。経験や自信のない方は、プロに任せるか、経験者立ち会いの元で作業することを強くお勧めします。なお、この作業によって事故が発生しても、私は一切責任を負えません。100%ご自身の責任と自覚の元で作業してください。また作業後に不具合が生じた場合は、できるだけ速やかに整備工場に持ち込んで点検、整備を受けてください。


交換方法
1 運転席側窓ガラスを全開にします。(作業中、ローターを動かすのにハンドルロックを解除するため)
2 ジャッキアップしてタイヤを外します。
3 キャリパーに差し込まれているロックピンを、プライヤーかドライバーで外します。
4 写真の赤→2箇所がキャリパーを固定しているスライドピンボルトの穴ですので、フタを外して7ミリヘックスで緩めます。スライドピンボルトは、ネジ穴を外れても、スリーブゴムでシールされているため簡単には出てきません。揺すって引っ張り出します。プライヤーで挟んで引っ張り出すことはしないでください。傷が付くとスライド機構に影響します。もし、素手ではびくともしないくらい固着していたら、スリーブゴムの交換が必要かもしれません。
5 左側のみ摩耗センサーが付いていますので、カプラーを外してください。
6 キャリパーを手で持ち揺すると台から外れます。このとき、新品のパッドが入る余地を作るため、ピストンをいくらか押し戻してやらなければなりません。そのため、完全に外す前に、キャリパーを両手で持って、ゆっくり左右に捻り、テコの要領でピストンをいくらか押し戻してください。この方法でピストンが戻らない場合は、ウォーターポンププライヤーで挟んで戻すやり方もあります。ピストンを傷つけないよう、ゴムやウエスを当てて行ってください。
それでも戻らなければSST(スペシャルツール)と呼ばれる、専用工具が必要になります。ただし、そこまで固いとシリンダーのサビ(特に降雪地方にお住まいの方は、凍結防止剤により早めに発生しているかもしれません)や、ブーツゴムの劣化の心配があります。その際は、キャリパーのオーバーホールが必要です。
ピストンを戻すとその分だけブレーキフルードのリザーバータンク液面が上がります。万一アッパーレベル以上に補充していたような場合、奧まで押し戻してしまうと、タンクからフルードが溢れ出るかもしれません。こぼれたフルードがエキゾーストパイプに垂れると発火の危険性がありますし、また塗装面を強力に浸食します。溢れそうな場合は、スポイトか針を外した注射器でフルードを吸い取って減らします。
7 キャリパーをローターから外し、パッドを取り外します。なお外れたキャリパーはブレーキホースで吊られて宙ぶらりんになりますが、この状態のままにするとホース接続部に無用の外力をかけますから、ローターに載せるか引っ掛けるかして、無理な力がかからないようにした方がいいと思います。針金でバネに吊ってもOKです。
8 キャリパーやローター周りをクレの「ブレークリン」等を使って洗浄します。洗浄しながら各部の点検をしてください。ハードな走行をした場合、シリンダーのブーツゴムやスライドピンボルト押さえのスリーブゴムが溶けたり変質している場合があるかもしれません。なお、流れ落ちたブレークリンは路面に黒いシミを残し、しばらく消えません。自宅駐車場等で作業する場合、下に新聞紙を敷くと良いでしょう。
9 新しいパッドの裏面に鳴き止めグリスを塗ります。塗る箇所は内側がピストンが当たる箇所、外側がキャリパーの押さえが当たる箇所です。当たらない箇所に塗っても何の意味もありません。また、パッドのカドは、全周にわたって少しヤスリをかけてカド落としをした方がいいかもしれません。ローターに均等に圧着させるのと、初期鳴きをを抑えるためです。
10 スライドピンボルトに専用のグリスを塗布すると、スリーブゴムの保護と、スムースなキャリパーのスライドに有効です。但し、汎用の金属用グリスやオイルは、ゴムを溶解させるおそれがありますから、絶対に使用しないでください。特にクレのCRC5−56は、ほとんどのゴム類に悪影響を与えます。(ガラスランに使うと一発でウインドーが開かなくなります。)ブレーキに限らず、油脂類は必ず専用品を使いましょう。
11 パッドをキャリパーにセットし、ローターにはめます。ボルトを締める際は、少しキャリパーを押し込んでやらないと上手くネジ穴に入らないと思います。ネジを切らないように手締めで慎重に作業してください。またボルト締め付け後、フタを忘れないでください。
12 ロックピンをはめます。キツイので、先に下側を完全にセットしたら、上側の末端を穴に差し込み、返しの部分を手で持って強く引っ張り、気合いでキャリパーに引っ掛けます。指を挟む危険があるので、必ず軍手を着用してください。はまったら、ドライバーの柄等で軽くコンコン叩き、完全にセットしてください。
13 左側の摩耗センサーのカプラーを差し込みます。パッドのブランドによってはセンサーがないものがあります。その場合は、カプラーが遊ばないよう、写真のようにブレーキホースにタイベル等でクランプします。
14 タイヤを取り付ける前に締め忘れ等がないか左右ともよく確認してください。
15 作業終了後は、必ず試運転をしてください。交通量の少ない安全な道路で、特に後方をよく確認してからフルブレーキングを何回か試し、効き、異音、振動等について確認してください。パッドとローターの当たりが出ていないため、ほとんどの場合効きが落ちているはずです。当たりが出るまではおとなしく走りましょう。
16 やや蛇足ですが、初めて使うブランドのパッドの場合、性能や鳴きの点で大いに不満が生じるかもしれません。その際一時的にでも、元のパッドに戻すことになるかもしれません。残量が限界近くになっていなければ、捨てずにしばらく保管しておいた方がいいと思います。
赤矢印の針金がロックピン
ヘックス7ミリ
ラチェット
赤の→2カ所がスライドボルト 写真は左前輪キャリパーを前方から撮影 
お店に頼むときは、「ラバーズ・グリース」と間違ってはいけません。全然違うものが届いてしまいます。
前回塗布した古いグリースは、ブレーキクリーナー等できれいに落としてから塗布しましょう。
なお、画像は納車約1年後のものですが、鳴き止めにクレの「ブレーキクワイエット」を使用していたところ、ご覧のとおりピストンのパッドとの接触面が錆びてきました。1年でこうですから、2〜3年放置したらかなり進行するものと思われます。鳴き止めグリースなら錆を防いでくれるでしょう。