後方から威勢のいい、そして妙に甲高い排気音が聞こえてきた。
当時まだ車の知識が少なかった私には、ちょっと排気音が大きければ何でも「フェラーリか?」と勘違いしていた。その時も同じように勘違いしたまま、右隣に停車した車を横目に眺めた。
すごく宇宙的なクーペが止まっていた。 リアビューは見たこともないデザインで、一瞬で虜になった。
そのリアの中心に、幼少の頃に見た不思議な蛇のエンブレムが見えた。 瞬間、それが「アルファロメオ」だと思いだされた。
これが156との最初の出会いだった。
当時、私のクルマを選ぶ第一の基準は「リアビューがカッコイイこと」だった。もちろん私の美的感覚が基準なのだが、これが以外と見つからない。 強いてあげればスカイラインの丸灯、セルシオの重厚さ、出たばかりのBMW3シリーズの跳ね上げ処理、といったものに琴線を引かれたが、どれもクルマとしては「フツー」に感じられ、自分の中では「あのクルマちょっといいかも」以上の評価は出てこなかった。
そこに出てきた156のテール、何にも似ていない、冷酷でクールな表情(と感じた)。サイド、Cピラー、ルーフからテールへ一つにまとまっていく、と思いきやばっさり切り落とされる造形。カッコイイ。そして、美しい。 「こいつは買うしかない。」心に決める。